夜の帳が下りるころ、駅前通り上空に現れる一筋の光──『JIKU』は、その土地に固有の歴史的・地形的な“軸線”を可視化するアートです。この光が、さまざまな歴史の変遷と積層によって独特の景観を築いてきたこのまちの新たなレイヤーとなり、多様な未来を予感させます。
パノラマティクス主宰/株式会社 アブストラクトエンジン 代表取締役/クリエイティブディレクター
1975年、神奈川県伊勢原市生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科 (MSAAD) で学ぶ。2006年に株式会社 ライゾマティクス (現:株式会社 アブストラクトエンジン) を設立。社内アーキテクチャ部門を率いた後、2020年に「CREATIVE ACTION」をテーマに、行政や企業、個人を繋ぎ、地域デザイン、観光、DXなど分野横断的に携わりながら課題解決に向けて企画から実装まで手がける『パノラマティクス』を結成。2023年よりグッドデザイン賞審査委員長。2023年D&AD賞デジタルデザイン部門審査部門長。2025年大阪・関西万博EXPO共創プログラムディレクター。
2018年より、地域固有の軸となる歴史や事象、伝説などを光の線によって可視化させる『JIKU』シリーズを全国のさまざまな地域や環境で発表してきました。各地で商業地化や住宅開発が進む中、場所の効率性重視の開発や埋め立て、建て替えなどによってその地が生まれたきっかけとなる参道や字 (あざ) などの拠点や地軸が物理的に消去され、その場所が発展する基軸となった物語が伝承できなくなった地域を数多く見てきました。それぞれのまちには、必ずそのまちの地層、地勢、歴史や産業などが紐づいたその地域特有の地軸が多く存在しています。それをリサーチやフィールドワークを通して見つけ出し、光線として可視化するのが本作品『JIKU』です。
別府の軸を見つけるのは容易ではありませんでした。昔の街道であった西法寺通りやまちの境界にある流川通りなど、まちの変遷に強く紐づく物理的な地軸や政治的なつながりがある軸などさまざまな場所を歩き議論をしてきました。そこで作品設置の場所としてたどり着いたのが、別府駅から続く駅前通りの軸線でした。
本作品は今までの『JIKU』シリーズで展開してきた単なる可視化とは異なり、地域の歪んだ軸に目を向けています。いまの別府のまちは、湯治としての温泉街の時代から、温泉観光や近代の都市開発までさまざまなものが入り混じり、パッチワークのようにさまざまな時代の建物が存在しています。
別府の入口となっている駅前の通りを『JIKU』で照らすことで、人々が空を見上げ、同じ光の筋を見ることで、まちの渾然一体感に思いを馳せ、『JIKU』を通して対話をはじめてくれることを願っています。
齋藤精一
別府市制100周年記念事業
(2025年2月23日時点)
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